第8回 航賞 受賞作品
特 選 | 蛍 火 | |
津村 京 | ||
四日はや出船の空を鳶の笛 橋いくつ掛かる町川夕おぼろ 蛍火の水に映りて流されず 靴跡を消す白波や夏帽子 点眼の軒にどくだみ乾く音 等身の鏡を拭きて帰省待つ 指切りの指にからまる大夕焼 秋ざくら百万本のそよぎかな 碑(いしぶみ)をなぞる指先彼岸花 名水に手を浄めたる昼の虫 | ||
秀逸一席 | 雨祈る | |
太田 直史 | ||
新緑や講の出立御師の宿 更衣この世は捨てたものでなく 田植仕舞畦で一家のお赤飯 長梅雨や鯛の魚拓に湿り皺 あの世からの土産話や浮いて来い 代々の弓師の格や麻衣 大き葉や空へ向日葵地に南瓜 | ||
秀逸二席 | 季の移ろひ | |
蒲田 吟竜 | ||
ホイッスルぴたりと止んで春の雷 耕や津軽の空を打つやうに 田を植ゑる霊峰岩木の影踏んで 水買うてまた陽炎を押して行く 山出しの声が谺に秋の山 葬り来て真つ新の雪ふみ惑ふ 親方は四十そこそこ山始 | ||
秀逸三席 | 冬瓜汁 | |
下山永見子 | ||
紅梅や仏前に子を見せに来る ふふみたる桜や幹に耳を当て 半夏雨あをき花の名訊ねられ 三つ散り三つ蕾を紅蓮 雨垂れの音しづまれり星祭 よきこゑは野にかへしたる鈴虫よ 竜の玉遺す言の葉わづかなる | ||
秀逸四席 | 高尾山 | |
児玉 一江 | ||
権現の天狗小天狗ほととぎす 法螺貝を吹く山伏の玉の汗 脈を打つやうに太鼓や青楓 滴りの山に杖つく音させて 新緑のざわめく空や奥の院 甘酒をふるまはれたる大広間 花さびた急ぐ旅にはあらずして | ||
佳作 順不同 | 白南風 | |
永 豪敏 | ||
うららかや地図一点の島に住み 家かくむ珊瑚石がき若葉風 太鎌の漢ばつさり甘蔗倒し | ||
佳作 | 火の匂ひ | |
天野 祐子 | ||
茅葺きに祖母ゐし頃や麦こがし 糠床を均す朝夕土用かな 庭下駄にしばし守宮の休みをり | ||
佳作 | 黄 蝶 | |
龍野 和子 | ||
梨の花さくらさくらと言ひしうち 花あかり棹さし離(さか)る空(から)の舟 葭障子長き廊下を曲がりきて | ||
佳作 | 安曇野の四季 | |
河本 茉莉 | ||
境内で男が煮炊き秋祭 ひもすがら高嶺颪や大根引 辛夷咲き村に瀬音の戻りけり | ||
佳作 | 鳥よ魚よ | |
太田かほり | ||
爪弾くは咽ぶに似たり沖縄忌 蓑虫に蓑わたしらに九条よ 十二月八日跫聞き分くる | ||
佳作 | 柿若葉 | |
保坂 定子 | ||
田舎教師通ひし道や茅花風 田に水を入るるはたから蛙鳴く 村人の守る無住寺葛の花 | ||
佳作 | 雨止む気配 | |
木村 珠江 | ||
麦秋や上棟札に大工の名 御神水青葉に染まる甲斐の国 初蟬やぴんと張りたる湖の青 | ||
佳作 | 白牡丹 | |
佐藤 耐子 | ||
葉桜や訃報巷を驚かす 石蔵の解体遂に藤の花 更衣三枚捨てて二枚買ふ | ||