榎本好宏 選
第6回 航賞 受賞作品
 今年度の「航賞」は、応募作品のなかから、特選一編と秀逸四編を選びました。毎年思うことですが、二十句まとめるのがなかなか難しいことのようです。
 私は日頃、十句出す時は、大体五十句は作ります。皆さんも、普段からそのくらいの覚悟で俳句を作っていただきたいものです。
 応募が少なかった割りには、選んだ句はかなり良かったと思います。
 特選の「露」は、全体に非常にレベルが高い作品となりました。特に、調べが良い。私は常々皆さんに、句を作る時は、何度もつぶやいて、自分の耳で聴いて作るように、と言っていますが、佐藤さんの作品には、そのつぶやきの美しさがあります。
 また、「航」を立ち上げて以来私が目指してきた方向にそった作品が多く、読みながら大変心地良さを感じました。

  

特 選
佐藤 享子
裏山は本山のもの虫時雨
銀漢に生かさるること問うてみる
墓といふ露けきものに詣でけり
ぼんぼりの灯りの果てに宮の月
尼寺に白湯をいただく菊日和
水音も仏の声や秋遍路
稲妻の音の中なる秘仏かな
五百羅漢影重ねあふ鉦叩
人悼みをればしきりに虫の声
残照の門吹く秋の風を掃く
菊ほぐすたびに匂ひし膾かな
はねつるべそこの露草ふまないで
萩を掃く軽き箒にとりかへて
影曳いて藁塚一つづつ昏るる
巫女舞の鈴八方に月今宵

秀逸一席
上毛蚕飼村
栗原  満
赤城嶺の風和らぎて桑を解く
梅雨寒やお蚕様へ炭火鉢
雨のやうな音立て夏蚕桑を食ふ
夏蚕上ぐ回転蔟(まぶし)に枡一杯
たばこ屋の柿の木下へ紙芝居
蚕飼家の垣根を灯す烏瓜
どぜう掘り腰を伸ばせば遠筑波

秀逸二席
ナポリの海
下山永見子
聖堂に先づ外しけりサングラス
汗しづむ絵のキリストの青衣
日焼の子暮しの石段下りくるは
片蔭にナポリの海をながめをり
日盛りの民の水場に耳澄ます
夏の灯のローマ傾け空のみち
雲海に種火のやうな夕日かな

秀逸三席
みちのく
天野 祐子
野馬追の旗指物の靡きをり
夏空へ摑みし神旗高く挙げ
はつたうの由来読みをり蟬時雨
夏炉焚き上座横座の煤けをり
屋根裏へ箱階段や昼の虫
隠沼の万緑揺らぐ魚の影
萱乾して昼寝の村となりゐたり

秀逸四席
木 犀
八木 和一
マフラーをしたまま座る机かな
雛祭娘に何もしてやれず
長病みの黒き瞳に椎若葉
師の残す葉巻の匂ひ山桜
三の湯へ老鶯谷を渡りけり
粽届けてくれし人皆老し
立秋や燕の去りし巣の辺り

  1.  第1回航賞 
  2.  第2回航賞 
  3.  第3回航賞 
  4.  第4回航賞 
  5.  第5回航賞 
  6.  第6回航賞 
  7.  第7回航賞 
  8.  第8回航賞