第1回 航賞 受賞作品
俳誌「航」の創刊にちなんで創設した第一回の「航賞」には十五人の方が応募したが、別項の七人に授与することに決めた。
選考は「航」創刊の「こころざし」に言う「無意識下のやわらかい自己の発現」に基準を置いた。
その結果、特選一席には、太田直史さんの「船渡御」を選んだ。平易な表現の中に、自らの負ってきた重い人生をさりげなく乗せ、それらの作品に、読者もまた自らの人生を重ねて読める妙がある。
同二席の田中勝さんの作品「盆供養」も、表現は平易ながら、周囲にある文化や伝統を自ら中に取り込み、体温のように周囲に発散している面白さがある。同三席の日高俊平太さんの「夕空」は、氏が日頃主張している取り合わせの妙を、まさしく「自己の発現」に相応しい新境地開いて見せてくれた。
このお三方、誰が一席になってもおかしくないレベルの作品群でもあった。
選考は「航」創刊の「こころざし」に言う「無意識下のやわらかい自己の発現」に基準を置いた。
その結果、特選一席には、太田直史さんの「船渡御」を選んだ。平易な表現の中に、自らの負ってきた重い人生をさりげなく乗せ、それらの作品に、読者もまた自らの人生を重ねて読める妙がある。
同二席の田中勝さんの作品「盆供養」も、表現は平易ながら、周囲にある文化や伝統を自ら中に取り込み、体温のように周囲に発散している面白さがある。同三席の日高俊平太さんの「夕空」は、氏が日頃主張している取り合わせの妙を、まさしく「自己の発現」に相応しい新境地開いて見せてくれた。
このお三方、誰が一席になってもおかしくないレベルの作品群でもあった。
特選 一席 | 船渡御 | |
太田直史 | ||
窯出しの炭打つ三月十日かな 万愚節麒麟の首に喉仏 芹の水我が来し方に悔ひのあり 茎立や犬の吠えゐる渡舟 船渡御の幟ねかせて橋くぐる 風呂使ふしやぼんの匂ひ広島忌 声明の木漏れ日のやう夏木立 水盤に梶の葉浮かべ星浮かべ 蛇籠幾つ流れを集め下簗 文机に毬の橡の実広辞苑 畑に墓東向きなり蕎麦の花 豆せんべい買ひに麩屋町秋灯 保線夫の作業着干さる花八手 父の忌や新海苔焙り修しけり 雲版の窪みに日射し冬の蠅 | ||
特選二席 | 盆供養 | |
田中 勝 | ||
豆を炒る炮烙寒の明くるべし つちふるや大和の墳に桃の種 花散るや切絵図どほり坂巡り 灰汁桶にわらび八十八夜かな 徳利買ひ観音裏の植木見に 風ないで花栗の日の暮れにけり 過去帳に朱筆添書き藺座布団 日除帽に鮒の継ぎ竿納棺す 盆供養上座におうな揃ひけり かなかなの浅間上信国ざかひ 草紅葉なべて控へ目虚子の墓 かなかなの空の高さよ姥子にゐ 三味線と万年青残して叔母逝けり 数へ日の稽古納めは連れ舞ひに 初暦よき日佳きこと蔵すべし | ||
特選三席 | 夕 空 | |
日高俊平太 | ||
春節や漏斗で移す甕黒酢 西域の壺の文様二月尽 啄木忌指もてさぐる削り残し ゆふづつに太くなりたる蝌蚪の紐 初つばめラジオに無着さんのこゑ 朧夜の遠き己の見ゆるまで ありがたう竹の皮脱ぐやうにかな 空動く今年竹みな撓ませて 影ひとつとはに過ぎゆく白日傘 広島の音の一つやかき氷 さみだれや兎抱へて園児たち 紙芝居来よ目黒川夏はじめ 悪友といふ空豆のごときもの 蓑虫へ間遠になりぬ夜泣き子よ 北風吹いて魚のやうにわが背骨 | ||
佳作一席 | 津軽の詩 | |
蒲田吟竜 | ||
種選ぶ異国の風が匂ふから 屋根雪のずり落ちる音海開ける 住職の来て妣のこと一夜酒 いわし船われに譲れぬ背骨あり それぞれに音を蔵せり軒つらら 鰰の群来て漁協の大秤 闇汁や二十一人みな漁師 | ||
佳作二席 | 花ひらく | |
龍野和子 | ||
小昼なり頬に野焼きの灰つけて 一本もとの桜に逢ひに独活提げて 木漏れ日に鶏のゐる伊勢参 山若葉鐘楼の屋根厚きこと 木歩の忌むらさきしきぶ色すこし さきがけの白鳥三羽波郷の忌 茶の花や鉛筆好きの祖母なりし | ||
佳作三席 | 島育ち | |
井之前勲 | ||
傘立てに金剛杖や梅雨の寺 皮はぎの造りに肝や夏料理 人攫ひ玫瑰だけが知つてゐる 十八里京へ山路を鯖背負つて 氷旗熊川宿の葛饅頭 赤錆し鎌鋤馬鍬虎耳草 船腹の溶接火花炎天下 | ||
佳作四席 | 慶弔貧乏 | |
長谷川きよ志 | ||
片陰に寄り来るお国訛かな 理科室に人の気配や夏休み 群雀散り夕立の来る気配 語り継ぎ語り老いたり終戦日 風錆びて風死して秋行きにけり ほととぎす海抜千と百五十 茹で卵つるつと釣瓶落しかな | ||